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札幌地方裁判所 昭和34年(む)11号 判決

被疑者 田浦新平

決  定

(被疑者氏名略)

右被疑者にかかる公職選挙法違反被疑事件に関し、札幌地方検察庁検察官検事武田庄吉がなした刑事訴訟法第三十九条第三項の処分に対し、弁護人小谷欣一より準抗告の申立があつたので、次のとおり決定する。

主文

昭和三十四年五月二十一日札幌地方検察庁検察官検事武田庄吉がなした「弁護人小谷欣一と被疑者田浦新平との接見等の日時及び時間を、昭和三十四年五月二十三日午後一時から午後一時二十分までと指定する」旨の処分を取り消す。

理由

検事武田庄吉作成の昭和三十四年五月二十日付意見書及び同月二十一日付指定書を綜合すると、結局検事は五月十九日より同月二十三日午後一時までの期間、弁護人小谷欣一と被疑者田浦新平との接見等を禁止した事実が認められる。よつて右検事の処分が刑事訴訟法第三十九条第三項但書に違反し、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するものであるかどうかを判断する。

憲法第三十四条は「何人も理由を直ちに告げられ、且つ直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と規定し、更に刑事訴訟法はこれを受けて、逮捕勾引及び勾留に際しては被疑者(被告人)に弁護人を選任することができる旨を告知すべきものとしている(第七十六条、第七十七条、第二百七条)。而してここに弁護人依頼権とは、被疑者が弁護人を選任し、且つ、実質的にその弁護を受けられる権利を意味するのは当然であつて、単に弁護人を選任することができるという趣旨であればかかる弁護人依頼権は全く無意味である。ところで、本件において被疑者は五月十八日勾留されているが、検事の接見等の日時の指定により勾留後五日余りの期間弁護人と全く接見することができず、従つてその間実質的に弁護人の弁護を受け、防禦の準備をする権利を行使することができないことになる。起訴前の勾留期間は原則として十日間であることを考えれば、右の如き結果を招来する検事の処分はいかに捜査のため必要があるとはいえ憲法第三十四条及び刑事訴訟法第三十九条第三項但書の規定に違反する不当な処分といわねばならない。よつて、右検事の処分の取消を求める本件準抗告は理由があるから、刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 土屋重雄)

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